近年我が国では、毎年のように集中豪雨、あるいは地震によって尊い人命が失われるような斜面崩壊が発生し、増大している。特に線状降雨帯の発生に起因した、短期間集中豪雨の発生の頻度が高まっていることから、斜面崩壊の発生は更に高まるものと予測される。
斜面崩壊の規模は様々であるが、統計的には約90%は崩壊深さが3mまでの浅層崩壊が多くを占めている。浅層崩壊対策としては、吹付コンクリート工、鉄筋コンクリートによる法枠工、鉄筋挿入工等、種々な方法が使用されているが、その多くは樹木を伐採して安定化を図る手法となっていることから、カーボンニュートラルを進める我が国にとっては、そのような観点からの評価、取組みが重要となっている。
ユニットネット工法は、ロープネット、ロックボルト、支圧板から成り、樹木を極力伐採せずに斜面の安定化を図る、主として浅層崩壊を防止する斜面安定工法である。本工法の大きな特徴は樹木を極力残すことに主眼が置かれていることから、カーボンニュートラルに合致した工法である。以下の具体的な数値を掲げて説明する。
下図はユニットネット工法、法枠工+ロックボルト工、モルタル吹付工+ロックボルト工によるCO2排出量を比較したものである。この図では、各工法にて1000m2範囲を施工した場合において、材料生産時のCO2排出量、施工範囲に生育する樹木の伐採によるCO2排出量及び施工後30年後までの総CO2吸収量を算出し、これらを合計した総CO2排出量を示している。材料生産時のCO2排出量の算出にあたっては、各部材の使用重量を算出し、独立行政法人国立環境研究所「産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)2015年データ」と総務省「平成27年(2015年)産業連関表 ― 部門別品目別国内生産額」に基づき算出した。また、施工範囲に生育する樹木の伐採によるCO2排出量の算出にあたっては、林野庁「統計情報 森林資源の現況(平成29年3月31日現在)」と環境省「2021年提出:UNFCCCへの報告及び審査_温室効果ガスインベントリ」に基づき算出した。ユニットネット工法の場合には、斜面に生育している樹木を伐採せずに施工が可能であり、施工後30年後までに残存した樹木の成長に伴う総CO2吸収量を同資料に基づき算出した。なお、比較のためいずれの工法も施工範囲の森林帯はユニットネット工法の施工実績による想定とした。
これより施工時におけるCO2排出量はユニットネット工法が最も少なく、他の工法に比べ、1/4~1/3程度である。施工後30年間の総CO2排出量もほぼ同様である。また施工後30年までにCO2を吸収している工法はユニットネット工法のみである。これは樹木を伐採していないことに大きく起因している。
以上のことから、世界的にカーボンニュートラルを志向している観点からは、ユニットネット工法は優れた斜面安定工法と言え、国連が示している17の持続可能な開発目標(SDGs)の中では9、11、13、15に合致するものである。
なお、ユニットネット工法の信頼性に関しては、過去には国土交通省のNETISに登録されたもので、かつ国土交通省、林野庁、兵庫県、愛知県等多くの施工実績を有していることから、十分備わっている。
関西大学環境都市工学部
特命教授・楠見晴重
ユニットネット工法は、従来工法よりも材料生産時のCO2排出量を抑え、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術です。
ユニットネット工法は、表層土砂崩壊対策を目的とした斜面安定工法であり、土砂災害による被災者数を削減し経済損失を減らします。
また、樹木を極力伐採せずに残しながら斜面安定を図る工法であり、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地を残すとともに、自然遺産の保護・保全に貢献します。
ユニットネット工法は、豪雨等に起因する斜面の表層土砂崩壊を未然に防ぎ、気候関連災害や自然災害に対する強靱性の強化に貢献します。
また、樹木を極力伐採せずに施工ができ、樹木によるCO2(温室効果ガス)の吸収を期待することができます。
ユニットネット工法は、樹木を極力伐採せずに残しながら施工ができ、斜面安定化と森林保護を両立させることができます。山地を守り森林減少の阻止に貢献します。